月経痛が重いと「生理なんてなくていい!」とか「生理のときは仕事に行かずに籠っていたい」とか考えてしまうもの。
しかし、月経で隔離されたあげく死亡してしまうような制度がネパールにはいまだにあるようです。
2017年1月8日、ネパール西部にあるアチャーム郡という地域でのチャウパディで、23歳の女性が暖を取っていた焚火の煙で窒息して死亡しているのが発見されました。
このチャウパディという制度では毎年のように死亡者が出ているそうです。
チャウパディとは何なのか、他にどんな被害があったのか、そして、江戸時代にもあった月経小屋とは何なのかを調べてみました。
月経中の隔離「チャウパディ」
ネパール西部で行われているヒンドゥー教の迷信に由来する風習です。
月経中の女性は不浄だから母屋ではない家畜小屋や掘っ建て小屋や洞窟などで生活しなければならないということになっているようです。
月経中の生徒が学校に行くことも禁止されていて、さらに女性教師も月経中は有給休暇で小屋にこもるというように徹底しています。
水も隔離された井戸や小川などを使い、この期間は家には入れないので屋外での農作業などをするのだそうです。
犯罪なのに
2005年にはネパールの最高裁がチャウパディは女性の権利侵害だとして、政府に廃止を要請しています。
そして、2017年8月にはチャウパディを犯罪とする法案が可決されているのです。
それでもなおこのようなことが起こってしまうとは、迷信や風習の強さというものに驚かされますね。
2011年の調査では、アチャーム郡で95%の女性がこの風習を甘んじて受け入れているようです。
しかも、刑罰を科された件はないのだとか。
隔離期間
その小屋で生活する期間は、
- 初潮時:10~11日間(場合によって14日以上)
- 月経時:4~7日間
- 出産時:10日~1ヵ月ほど
冬は寒い
なぜか毛布は使ってはいけないということになっているようです。
麻の敷物しか使ってはいけないらしく、冬は焚火をして暖を取るしかないのだそう。
今回の報道では焚火での煙で窒息死したらしいですから、屋内での焚火は危険が伴うものであることは確かです。
迷信
月経に関わるヒンドゥー教の迷信にはどのようなものがあるのでしょうか。
生理中の女性が木に触れば、その木は実を結ぶことがなくなる。
生理中の女性が牛乳を飲めば、牛は乳を出すことがなくなる。
生理中の女性が本を読めば、学問の女神であるサラスヴァティーが怒る。
生理中の女性が男性に触れば、男性は病気に罹る。
チャウパディ
「そんな馬鹿な!」といいたくなる事柄ばかりですが、実際信じているからこそ今回のようなことが起こるのです。
チャウパディでの被害
チャウパディでの被害は今回だけではなく、毎年のように死亡者が出ています。
死亡しないまでも、何らかの被害にあうことは少なくないようです。
- 焚火の煙で窒息死
- 下痢と脱水により死亡
- 毒蛇に咬まれ死亡
- 強姦
- 拉致
- 殺人
これらの被害が毎年出ていても、月経中の女性を触ると自分自身が不浄になってしまうので、それを恐れて助けることはないようです。
悲しいというか情けないというか・・・
日本でもあった月経小屋
かつては日本にも月経小屋のようなものがあったようです。
当時は月経という言葉はなかったでしょうから、小屋の名前は「他火小屋(たびごや)」や「他屋(たや)」「忌み小屋」などであったと思いますが。
日本にあった月経小屋ももとをたどればヒンドゥー教の穢れの考えから発しています。
インドで生まれたヒンドゥー教から、同じインドで生まれた仏教に入り込んだと考えられていますから、平安時代に日本に伝えられた仏教にも穢れの思想があったのでしょう。
さらに室町時代までに日本に入ってきたとされる「血盆経」という経典によって一般庶民に広まったようです。
「血盆経」とは、出産時の出血で地神を穢したり、そのときの血を川で洗ったときに川下の人が汲んで飲んでしまうことが起きるために女性は死後、血盆池(血の池)地獄に堕ちると説いた経典です。
加えて、江戸時代に月経も血の穢れとして含まれたのではないかと考えられています。
その時代に「血盆経」を世間に伝えていたとされる高野山真言宗・真言律宗・臨済宗妙心寺派・天台宗・浄土宗・曹洞宗の勢力が強い地域ほど月経小屋が多かったという報告もあります。
日本の月経小屋が廃止されたのは明治時代といわれています。
「産の穢れ」で休みを取っていることに驚いた西洋人が抗議したことが発端だともいわれているようです。
混浴が禁止されたのも西洋人の「男女が同じ風呂に入るなんて野蛮だ」という発言からだといわれていますから、明治とは日本の文化が大きく変わっていく時代だったのでしょうね。
月経は穢れなのか?
ヒンドゥー教の迷信がどんな事柄をもとにして生まれたものなのかはわかりませんが、月経がなければ子孫繁栄もできないはず。
それなのに月経をよくないものとして捉えるような考え方をしてしまうとは何とも悲しい。
ネパールはカーマスートラを作り上げたインドの隣国なのに。
月経中で辛い身体を休めるための暖かく居心地のよい月経小屋ならあってもよいかもしれませんが、野生生物や悪人から身を守れずに清潔に過ごすことができない月経小屋では、健康な女性が少なくなってしまって子孫繁栄できずに、いつかその地域の血脈は絶えてしまうのではないでしょうか。
経典はとらえ方によってどんな解釈もできるもの。
チャウパディをつくりだした迷信も本当は違う意味合いだったのではないかと思いたいです。
ネパールだけではないかもしれません。
どの国にでもいまだ秘かにありそうな月経小屋。
どうかそんなひどい小屋がひとつもない世の中になりますように。