車で帰省や旅行する人は多く高速道路の渋滞は必ずニュースになっていますよね。
そして、毎年GWには1万件以上の交通事故が起きています。
どうしたら高速道路での事故を予防できるのでしょうか?
高速道路の事故
高速道路での事故は追突が91.4%、車両単独の事故が7.5%と追突事故が9割を占めています。
ドライブレコーダーを搭載する車が増えたことから、その追突事故の多くがミステリアスなものだということがわかってきました。
事故のタイミング
高速道路での死亡事故の50%が、運転し始めてから約1時間以内に起きています(警察庁資料より)
もちろん1時間以上の長距離運転でも死亡事故は起きていますが、高速道路を走り始めて60分以内での事故が半数を占めるとは驚きですよね。
運転している方の状態
居眠り運転とはいっても、ぐっすり眠ってしまっているのではなくて催眠状態に近いものだそうです。
その状態になると、前に車がいることに気が付いてはいるものの、その車に吸い寄せられてしまいます。
「そこに近づいていくことがどんな意味を持っているのか」頭の中で正確に判断できていない状態なのです。
事故を起こしてしまった方は
「前の車に吸い寄せられた」
「視線が外せず、ハンドルが切れなかった」
と言っています。
つまり、高速道路での追突事故は、単なる居眠りではなく「目の前のものが見えているのに判断力が低下して」起こっているのです。
これを「高速道路催眠現象」と言います。
本当に「高速道路催眠現象」は起きるのか?
ガッテン!では、本当に「高速道路催眠現象」が起きるのか、高速道路のシミュレーションを使って運転歴10年以上で体調が良好な4人の方に運転してもらいました。
そして、それを視線分析のプロが別室で観察します。
一人目の方は1時間後あたりから、それまでメーターを見たりミラーを確認したりして動かしていた視線が前方一点を注視し始めてしまいました。
その方の顔を撮っているカメラでは目はしっかりと開いています。が、だんだんと高速道路の壁に吸い寄せれて行ってぶつかってしまいました。
「起きてますか?」のスタッフの問いに「起きています。遠くの青い車に見とれていました」と答えています。
二人目の運転歴40年の大ベテランの方も、運転開始から20分で視線が一点に固まってしまいました。
「起きていますか?」と質問すると「起きています」と答えますが、スタッフが棒の先に垂らしたどーもくんの紙を運転席の前のほうで揺らしても気付きません。
そして、左に寄りすぎて何度か壁に当たっていましたが、それすら気付いていなかったようです。
その他の2人も1時間以内に同じ状態に陥ってしまっていました。
「高速道路催眠現象」を疑似体験
テレビを観ている人にその状態を疑似体験してもらうためにと、高速道路を走っている映像を流して、それを片手を筒状に丸めた中からその映像を覗くということをしました。
実際に私も片手を筒状に丸めた中から映像を見てみましたが、後ろに流れていく区画線(白線)の動きが突然遅くなり、前方の車もゆっくり走っているような錯覚に陥りました。
高速道路を運転していると自然とこのような見え方になると考えられています。
速く走っている車がゆっくり走っているように感じるなんて恐ろしすぎますよね。しかもそれは無意識のうちにその状態になってしまうので防ぎようがないというのが、これまた恐ろしいです。
剣道の達人と検査技師のスペシャリスト
この「高速道路催眠現象」は目に備わったある不思議な力が関係していると考えられています。
剣道の達人は相手の顔に視線を留まらせたまま、頭の上から足の先まで見ているそうです。
この状態を遠くの山全体を見るようにすることから、剣道では「遠山の目付け」といいます。
卓球などでも球は見ないという話を聞いたことがありますが、それもきっと同じようなことでしょう。
車の部品に異常がないか検査する検査技師のスペシャリストは、わずか4cmの小さくて複雑な部品を1日に6000個も検査するそうです。
1個を目視するのは1秒にも満たないくらい。
検査技師の方に内緒で部品のひとつに数mmの汚れが付いたものを紛れ込ませてみても、一瞬で判別しました。
この方がいったいどのように部品を見ているのかというと「一生懸命見るのではなく、何気なくみている中で違和感を感じるような」とのこと。「考えず感じる」ということだそうです。
目に備わっている力はよくわからないけどすごいですね!
視覚
私たちの目は、眼球の後ろの壁(網膜)にものが映ることで「見える」わけですが、網膜に映ったものが均一に見えるわけではありません。
中心視といわれる部分では詳細に見えますが、その周りは周辺視といってぼんやりしていてピンとも合っていません。
ぼんやりとしか見えない周辺視ですが、見える部分は200°と広く、動くものに敏感という特徴があります。
実はとても広い部分が見えてしまう私たちの目ですが、視覚からの情報が多すぎて脳がパンクしてしまいまうのを防ぐために、しっかりピントが合う部分とぼんやり見ている部分とに分業しているのです。
ところが、動くものに敏感な周辺視の機能が高速道路では裏目に出てしまうのです。
高速道路では普段の生活ではありえないほどの動きのある情報が目から入ってくることになります。
例えば区画線(白線)やガードレールがすごいスピードで目に飛び込んできますが、これを流体刺激と言って、この流体刺激は動くものに敏感な周辺視には大きなストレスとなります。
非常に疲れやすい状態なので、脳を守るため、疲れを少なくするためにと無意識のうちに見る範囲を狭めてしまうのです。
つまり、流動刺激が一定だと脳が必要ない刺激である、と判断して楽でいられる一点だけを見るようになってしまうというわけです。
脳って意外と省エネ志向なんですね。
省エネのために一点を見るわけですが、楽でいられる一点って前を走る車であることが多く、そこだけ見ているとその車がとてもゆっくりと走っているように見えるのです。
このため、景色が変わらないと脳は「休んでいい」と思って判断力を低下させてしまい、目の前の車に吸い寄せられるなどの現象が起こってしまうのです。
本能だからどうしようもない
九州大学工学部の名誉教授である松永勝也先生によると、「この現象そのものは本能といえる」そうです。
運転そのものは自動化されており、ここでハンドルを切ろう、とかブレーキを踏もうなどと脳をいちいち使わなくても出来る状態なのですが、そのように非常に単調な状況におかれると、緊張状態を保てるのは個人差はあれどわずか5分間なのだそうです。
そこからは徐々に緊張度が下がってきて、1時間くらい経つと寝る直前くらいまで覚醒度が下がることもあり得ます。
ということは、「どうしようもない」ということではないでしょうか?
松永勝也先生は「ある面では我々にはどうにも変えられない部分である」とおっしゃっています。
「高速道路催眠現象」は避けられない
となるともう車間距離を開けるしかないそうです。
どんどん引き寄せられていってしまうことは避けられません。
居眠りの状態になることは避けなければならないとしても、どうしても脳の活動は下がり始めてしまいますから、危険に気付くのが遅くなってしまうのです。
ということは、反応が遅くなる前提でぶつからない車間距離をとる以外に方法はないのです。
車間距離ってどのくらい取ってる?
松永勝也先生は「目測では自分の思っている半分程度しか取れていない」とおっしゃいます。
「正確な車間距離を取ることが難しいのに、車間距離を取りなさいと言っても安全な車間距離を取ることはできない」そうです。
ではどうしたら正確な車間距離を取ることができるのでしょうか?
4秒ルール
安全な車間距離は時速100kmの場合およそ100mです。
上空から高速道路を走る車車間距離をみてみると、ほとんどの車が半分以下の車間距離しか取っていません。
これでは下道で時速50kmで走るときの車間距離と変わらないということです。
安全な車間距離の測り方
では高速道路ではどうやって車間距離を測るかというと、まず、看板などの目標となるものを決めます。
前の車が目標を通過してから4秒後に自分が通過すれば安全な車間距離を保てているということになります。
コツは秒数の数え方で「ゼロイチ、ゼロニ、ゼロサン、ゼロヨン」と少しゆったり数えることです。
この車間距離を時間で測る方法は一般道でも有効だそうで、最近では各地で車間距離を取る運動を実施しているようです。
大分県では一般道の車間距離を3秒に、と指導し続けたところ、追突事故が75%減少したそうです。
1時間以内に休憩を!
4秒ルールのほかに大事なことは、走り始めて1時間以内に1度休憩を取ることだそうです。
催眠状態にならないように頭をすっきりリフレッシュさせましょう。
逆走
高速道路での追突事故以外にも気を付けたいことはあります。
そのひとつは逆走です。
なんと2日に1件は逆走があるのだそうです。
逆走は正面衝突が多く、そうなるとお互いのスピードによって追突事故よりも衝撃が大きくなり、大きな事故につながりやすいと言えます。
イメージではお年寄りや認知症の方がしてしまうのではないかと思われる逆走ですが、認知症の疑いがある逆走は9%くらい。
85%は健常者、しかも一番多い年代は20代。次が70代との調査結果があります。
高速道路の出口の道路に「首都高出口」などと書いたところ、逆走が減少したそうです。
姿勢が少し前かがみになったり、カーナビに目を落とすなどするだけで、上の視界が狭まってしまいます。
ですので、道路にペイントすることで上にある道路標識を万が一見落としても逆走を防ぐことが可能になるということになります。
ただこれ、雪が多い地域の冬には使えない方法ですよね。
根雪のある地域の方はできるだけカーナビだけでなく、道路標識のある上の方にも意識を向けるように心掛けましょう。
アクセルとブレーキの踏み間違い
アクセルとブレーキの踏み間違いはテレビのニュースなどでときどき見ます。
踏み間違いは事故になっているだけで年間7千件起きています。
そして、歩行者を巻き込む可能性が高いことが恐ろしいところです。
高齢者に多いと思われがちですが、20代が一番多く、次いで70歳以上が多いという調査結果があります。
どんな時に踏み間違える?
では、どんなときにアクセルとブレーキを踏み間違えてしまうのでしょうか?
九州大学工学部の名誉教授である松永勝也先生が実験をして、ある条件で踏み間違いが起きやすくなることを突き止めました。
ガッテン!で松永勝也先生が実験を再現していました。
その実験では縁石の半分くらいの段差を乗り越えてもらう課題を運転手に課します。
段差を乗り越えた先には段ボール箱を積んであるので、その段ボール箱にぶつからないように段差を乗り越えたらすぐ車を停止させる、ということが必要になるのです。
つまり段差を乗り越えるためアクセルを踏み、段ボール箱の前で止まるためすぐにブレーキを踏まなければなりません。
実験は車の中で行いますが、安全のために助手席には補助員の方が乗っています。
段差を乗り越えて、あとはブレーキを踏むだけというタイミングで後部座席の番組スタッフが携帯電話を鳴らすと、13人中4人が踏み間違いをしました。
段ボール箱にぶつかった後もアクセルを踏み続ける方もいました。
助手席の補助員がブレーキを踏まなければ実験とはいえ恐ろしいことになりますよね。
九州大学などの研究によると、携帯電話を鳴らしたりするなどびっくりさせることをすると45人中12人が踏み間違えたという結果になったとのこと。
踏み間違いで事故を起こした人の証言を聞くと
「助手席の妻が文句を言ってきた」
「クラクションを鳴らされた」
「前の車が急に止まってびっくりした」
などということです。
間違えたと思ったらすぐにブレーキを踏めば良いのでは?と思ってしまいますが、パニックになるとアクセルから足を離すことができなくなることが多いようです。
松永勝也先生は「踏み間違いを防止することはできない」と断言します。
長い研究結果から「人間は踏み間違えるものだ」ということが証明されたのだそうです。
なぜ踏み間違えるのか?
車の運転ではアクセルを踏む回数のほうが多いです。
そのため、とっさの時に慣れているアクセルを反射的に踏んでしまうものなのだとか。
すばやくブレーキを踏もうとすればするほどアクセルを踏んでしまうのです。
アクセルを多く踏むということは、踏み間違える練習をしているということにもなるのだと松永勝也先生はおっしゃいます。
ブレーキを踏んでいるはずなのにおかしいなと思ったら足をペダルから離すという判断はできないのでしょうか?
松永勝也先生は「本人はブレーキを踏んでいるつもりなので、より強く踏み込んでしまうはず。離すというのはブレーキを離すことになるからものすごく勇気のいることだ」とおっしゃいます。
踏み間違えないようにする習慣とは
ではどうしたら踏み間違いを少なくすることができるのかというと「踏み間違いが少なくなるような習慣をつけることだ」そうです。
その習慣とは、常にゆっくりアクセルを踏むことだそうです。
そうすれば、間違えたとしてもゆっくり発進するのでブレーキを踏む余裕が生まれるからです。
急発進・急ブレーキは事故のもと、と言いますが、いつもいつもゆっくりとアクセルを踏むことを意識して運転したいものです。
事故らないためにできることとは?
事故を起こさないためにはいったいどうしたらよいのでしょうか?
どうしたら眠くならないようになるか、どうしたら踏み間違えないようになるか、という対策をするよりも、眠くなることが前提、踏み間違えることが前提での対策をすることによって事故を防ぐという考え方が大事なのだそうです。
自分の命だけでなく、同乗する家族の命、また歩行者など他人の命を守るためには考え方の前提を変えることが必要なのだとわかりました。
考え方の前提を変え、どうしようもないからこその対策をしていきましょう。
4秒の車間距離
ゆっくり発進する
これを徹底していきましょう!